マンション大規模修繕日記

マンション大規模修繕業務に係わる日記です。

2016年03月

どのようにすれば、分譲会社は動くのか?

「建物が竣工図のとおりに作られていないために問題が起きている」という事象であれば、先方は対応することが必要になります。

実際に経験したマンションでは次のようなことがありました。

寒冷地にあるマンションで

1.外構の床のインターロッキングが不同沈下してしまいました。
竣工図では、インターロッキング下に砕石が45cm敷かれていることになっているはずなのに現地には15cmしか敷かれていない。

2.竣工図では、上部アルミフェンス、下部コンクリート塀に車をぶつけてしまったが、コンクリートのはずの塀がブロックでできていた。

3.地下のトランクルームにカビが全面的に発生した。竣工図では、換気扇が2箇所あるはずが、大型の換気扇1箇所になっていた。

3つの問題について、分譲会社に相談し,補償をお願いしたところ、分譲会社は3つの問題の責任を全く認めませんでした。

そこで、管理組合は、裁判所に小額訴訟を起こしました。

さて、裁判所の判断はどのようなものだったでしょうか?

建築の専門家と言っても

「建物の新築時に問題がある」かもしれない場合にマンション内、あるいは知人の建築の専門家に分譲会社との交渉に同席してもらえば、交渉がスムーズに行くと思いがちですが、これはちょっと違います。

確かに建築の専門家は建築技術には詳しく、昨日の「瑕疵」という言葉についても建築業界では良く使う言葉です。

しかし、言葉の意味するところを良く理解していなかった場合、「瑕疵を立証する責任は、言い出した組合側にある」ということを知らずに、新築時の分譲会社、施工会社に対して簡単に使ってしまうことがあります。

たとえば、「これはどう考えても、常識的に考えて、あなたたちの「瑕疵」ではないのか?」

交渉の席で組合側の専門家は、このように何気なく言ってしまうかもしれません。

こうなると、分譲会社側は「わかりました。社に持ち帰ります」と答えます。

その後、分譲会社側は「新築の工事に問題はありませんでした」という報告書を出して終わりとなります。

回答を見て、組合が分譲会社は不誠実だと文句を言っても、瑕疵の立証責任は組合側にあるので、先方から次のステップには進みません。

簡単に言えば、瑕疵を証明できるだけの証拠がないうちに安易に「瑕疵」という言葉を使ってしまうと、話がそこで終わってしまう可能性があります。

組合側から「瑕疵」ではないのか?と分譲会社に伝えたことは、今回の問題は「瑕疵」として扱ってください宣言しているようなものです。

また、「瑕疵の立証責任は組合にある」ことを先方は、わざわざ親切に教えてくれません。

組合はそのことを充分理解した上でこの言葉を使っていると解釈されます。

建築の瑕疵について まとめたHPがありますので、参考としてください。

http://www.courts.go.jp/osaka/saiban/kentiku/02_08_ryuiten04/index.html

瑕疵という言葉の使用は避けてください。

「瑕疵」という言葉は建築関係者にとって、重大な意味を持っています。この言葉を聴くだけで、分譲会社、新築時の建設会社は強く警戒します。

もしも、あなたが交渉の席上、「瑕疵という言葉を出せば、交渉がスムーズに進む」と思っているなら、それは逆効果にしかなりません。

辞めた方が良いです。

先方の担当者はクレーム処理のプロです。

分譲会社に対して「瑕疵」を主張する場合、それを立証(証明)する責任は訴えた側にあります。

どの部分が問題(不法行為)で、具体的にどのような被害があるのか明確にする責任は訴える側の組合にあります。

ここを明確に出来ない限り、先方は交渉のテーブルに着くことはありません。

たとえば、外壁タイルが通常に比べ大量に浮いていたとしても、その原因が新築時の施工にあることを組合側が明確にする責任があります。

どの部分でどれくらいのタイルの数量が浮いているのか「数量と位置」を明確にすることも組合側の仕事になります。

裁判まで行く場合にも求められる資料なので、あらかじめ準備しておくことが必要です。

「組合員のちょっと怪しい、心配だ」「売主はこの建物に問題がないことを証明しろ」では、分譲会社は無償で動かないと思ってください。

例)エクスパンション・ジョイント部分で建物にズレが生じていても、それだけで分譲会社は、無償では調査しません。

このような理由で「瑕疵」の責任が先方にあることを立証できていないうちに軽々しく使ってしまうと、分譲会社、新築時の建設会社とも交渉のテーブルに着く必要がなくなります。

交渉に慣れた担当者は、このことを充分に知っています。

このブログでよく読まれている記事

最近、このブログでよく読まれている記事を調べてみますと

1位「シーリングの軟化2」

2位「外壁タイルが浮く本当の理由3」

この2つの記事に共通するのは、新築時に発生した問題について書かれている内容です。

想像すると新築時の工事に原因があって、悩んでいる管理組合の方が大勢いらっしゃるということです。

実は私も、新築時の工事に問題があって、大規模修繕時にその問題が発覚し、管理組合の皆様と問題を解決した経験が何件かあります。

具体的には、補修費用の一部を負担していただきました。

また、それ以上に解決できなかったこともあります。

新築時の問題への対処の方法について、何回かに分けてお話しいたします。

まず、「新築時の問題」と書いているには、訳があります。

建築関係の方であれば、このような「新築時の問題」という言葉は使われないと思います。

「瑕疵(かし)」という言葉を使うのが、一般的です。

新築時の工事にミスがあった場合に使う言葉です。

では、なぜ、この「瑕疵」という言葉をあえて使わないのか?

それは、建築関係者にとってとても危険な言葉だからです。

使っても問題を解決する上で「良いこと」「得になること」は、ほとんどありませんのであえて使わないようにしています。

日本女子サッカーから学ぶべきもの

マスコミの予想と期待を裏切り、日本女子サッカーチームはオリンピック予選を突破できませんでした。

2011年のワールドカップでは優勝、翌年のロンドンオリンピック、2015年のワールドカップでも銀メダルに輝きました。

今回のオリンピック予選も突破できて当たり前、予選敗退はありえないという前評判でした。

こうなると一転、世代間の溝、世代交代の失敗、監督と選手の溝などの報道があふれています。

過去に数多くの成功を収め実績も充分で、磐石に見えるような組織にも、常にリスクは存在しています。

何かの拍子にひとつ歯車が乱れると磐石に見えたシステムもあっという間に崩壊してしまいます。

実はマンション管理組合と大規模修繕という大きな節目でお付き合いをしていく中で感じるのは、ここ3年の工事費の高騰が組合運営に大きな影を落とし始めています。

仮設足場のように5割近い値上がりのあった工事項目や外壁塗装のように1割程度の値上がり幅に収まる工事もあり、平均すると工事費は3割近く値上がりしています。

いずれにしても、なんらかの手段を講じないと、このままでは、修繕時期が迫っていても、工事が実施できない組合が出てきます。


聖火台がない

マスコミでは、木造の新国立競技場に聖火台の位置が想定されていないことをまるで「設計ミス」のように取り上げられていますね。

「聖火台の大きさ重さを考えると建物のどこにでも、持っていくことができるので大勢に影響はない。」

「木造と言っても下地は鉄骨であり、不燃材です。」というのが、設計側の言い分です。

建築に携わる者としては、設計側の言い分に充分納得できるのですが、マスコミの論調は否定的です。

この段階で聖火台の位置が決まっていないのは、「おかしい」

やはり「設計ミス」ではないか?

最近の建築を扱った事件は、どうも、マスコミの方と専門の人たちと物の見方の差が大きく、そのことが、事件を更に大きくしているような気がしてなりません。

騒ぎが大きくなるほうが、マスコミには良いのかもしれませんが、当事者にとっては堪らないことも多々ありますよね。

特に自分のマンションの事を取り上げられると・・・

最悪、マンションの資産価値まで下がりかねない事態になります。

果たして区分所有者は勝ったと言えるのでしょうか?

先日のセミナーで、建築の構造設計を専門としている講師の方が、構造的に建物に問題があると判明したわけではないとお話ししていた横浜でマンションが傾いたとされる問題は総会で全棟立替えとなるようです。

ここまで、問題が大きくなってしまっては、これしか結論がないのかもしれません。

なぜなら、今更、実は杭の工事に問題がなかったとしても、今後このマンションの評価には?が付いて廻り、売買価格が下がる可能性が高くても、上がる可能性は低いからです。 

分譲会社として、「一刻も早い対応」「誠実な対応」を目指した結果、ほかに方法が無いと判断せざるを得なかったと思います。

この状況をリセットするには、「全棟を建て替えしか方法がない」ということなのかもしれません。

しかし、このような「建物の安全確認という事実の究明」よりも「世論への対応」が重要になってしまうことは、あまりよい事ではないと感じています。

今回の解決方法は客観的に見ると、誠実で実りある結果に見えますが、実は、区分所有者、居住者、分譲会社、建設会社のだれも救われず、心に大きな傷が残る結果になりかねません。

簡単に言えば「建て替え」が終わる5年後に果たして、何戸の区分所有者の方がもう一度このマンションに戻って来られるのか?

近所に引っ越すにしてもマンションの規模が大きすぎて、せっかく出来たコミュニティーもバラバラになってしまいます。

当事者である、組合員の皆様が、この1年4ヶ月の間に受け続けた不安、心労によるダメージや哀しみ、虚しさ、そして、半ば強制的にコミュニティを失わざる喪失感、無力感、失望を想像すると心が痛みます。

比喩としてふさわしくないかも知れませんが。東日本大震災と原子力発電所の事故で、強制的にこれまで住んでいた土地から離れざるを得なかった人達と同じではないでしょうか?

総会決議とは言え、組合員の決断というより、苦渋の選択です。

このような問題の「最善の解決方法」として、早期の「全棟建て替え」だけが前例とならないことを祈ります。
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