昭和から平成にかけては、若手の建築技術者は北海道の地場企業で務めるよりも全国に支店のある大企業に勤めることが、給与を含めたあらゆる面で待遇がより良く、そちらを目指すというのが常識でした。

また、どの会社も売り上げ、利益は前年よりも次の年は上がっていく、いや、上げていかねばならない。いわば右肩あがりで運営することが企業として当たり前、いわば右肩あがりが企業として常識でした。そのために必死に頑張ることも当たり前でした。

しかし、令和になるとそんな昭和や平成の常識は一切通用しない状況になっています。

私も昭和から平成に生きた身ですから、ちょっと信じられないことが3年ほど前から起こっています。

令和になると、なんと、大規模修繕工事に携わる令和の若手建築技術者は全国規模の大手の施工会社をどんどん辞めて、地場の中小の施工会社に就職しています。

特定の会社ではなく、多くの全国規模の大手企業でみられる現象の様です。

一人や二人ではなく、全ての会社を合計すると多くの若手建築技術者が大手から中小に転職しています。

あまりに不思議で大手を辞めた理由と中小を選んだ理由を当事者に伺う機会が何度かありましたので、詳しく聞いてみました。

全国規模の大手の施工会社を辞めた理由としては

・冬季間本州の現場に出向がありその間、奥さんのワンオペ育児や介護が避けられない。

・転勤が何年かごとにあり、家族に大きな負担がかかる。

・現場以外の社内的な仕事量が多い

・会社の社風、上下関係が「厳しい」

・年間の売り上げ目標、利益目標が決められていて、それを達成することが最優先課題。

・無理な受注も中には出てくるが、そのしわ寄せ(負担は)現場を預かる若手技術者に

・社内が常にピリピリしていて落ち着かない。

・ピリピリしている上司に相談できない。頼れない。

等でした。

一方の地場の中小の施工会社選んだ理由

・転勤がない

・社風、上下関係は厳しくなく、すべてがいわば「緩い」

・売り上げ、利益を上げるよりも「みんながソコソコ食べていければ良い」という考えで無理な受注はしない。

・社内の雰囲気は「和気あいあい」

・上司に気軽に相談できる。頼ることができる。

・給料を含めた待遇は大手に比べそんなに悪くない。

現在の若手建築技術者は「転勤」「厳しい」「ピリピリ」を嫌い「緩さ」「和気あいあい」「上司に相談」を求めているようです。

そもそも、大規模修繕工事は管理組合からの発注量が年によってマチマチな業務です。

発注量が多い年があれば、一転少ない年もあります。発注量が減った年に一度上がった売り上げを減らせないとなるとかなり無理をして受注することになります。

この状況で売り上げ、利益を常に右肩上がりとする目標を掲げると、現場を任せられた若手技術者には、自分のキャパギリギリの長時間勤務といった様々な負担がかかっています。

さらに言えば、長時間勤務によって夫婦の関係にひびが入り、最悪離婚に至ったケースも少なくありません。奥さんは急な長時間勤務に対してご主人の浮気を疑うようです。

どうやら会社が「売り上げ、利益を常に右肩上がりにする」という目標は若手技術者にとって望ましいものではないようです。

技術者不足のため、会社を移ることが、以前よりも簡単になっています。

若手技術者がいわゆる「地方の中小の会社」から「あらゆる面で恵まれた大手の会社」にどんどん移ると思っていましたが、現実はその真逆で「厳しい大手」から「緩い中小」に移っています。

大切なのは、家族との時間だったり、ワークバランスだったり・・・多少の収入増よりも、和気あいあいの雰囲気の良い環境で、緩く、上司に相談したり、助けてもらいながらソコソコ稼ぐことができればよい。ということのようです。